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【連載小説】虹への旅

【連載小説】虹への旅



『デビュー前の“作家の卵”の方々の作品を先取りして、日々の読書を楽しもう』

をコンセプトに、様々なジャンルの小説の冒頭5話を掲載しています!

面白い作品や気に入った作家を見つけて、作家デビューまで応援しよう!

本ページの最後に作家様のリンクを設けてあるので、足を運んでみてください。


連載小説の第3弾は...

『虹への旅』 優秋

感想やこの小説の続きはページ下のリンクよりお進みください。


≪目次≫

プロローグ

第1話 魔物殺到《デスパレード》

第2話 勇気と闘志

第3話 襲う鋭爪

第4話 天翔る焔橋

◇お願い◇



プロローグ


きっと、これは悪夢だ。

そう、自分に言い聞かせる。

勇者である自分が、

眼前の出来事から目を背けてはいけない。

でも、どうしようもない。

何もできない。何も言えない。

絶望に引き裂かれた

小さな少年に。

魔王すら倒した伝説のパーティも、

この現実には立ち尽くすだけだ。

少年は泣き叫ぶ。震える。

捨てられた赤子のように。

その身体は傷だらけで、

彼の爪からは、彼の血と肉と皮が滴っている。

黒雲から降る豪雨が、

残酷なまでに彼の身を打ちつける。

何かがあったはずだ。きっと、少年のすべてが。

こんな残骸の群れではなく、

ぽかぽか暖かい、陽だまりのような時が。

あったはずなんだ。

だから、夢なら覚めてくれと、

この場の誰もが思った。

やがて、少年は動かなくなり、

少年は




壊れた。



第1話 魔物殺到《デスパレード》


「はぁ、はぁ、はぁ」

「ヴォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!」

「「キシャシャシャシャー!」」

「「「「ヴヴウゥゥゥーワオオオオオオォォォォ」」」」


聞いた者の背筋を凍らす雄叫びは、

見た者が震え上がるほど凶悪な怪物《モンスター》が発したものだ。

強靭な肉体を金属のように堅い毛で覆い、鋼鉄から造られた鎧をたやすく貫く鋭利な爪を持つギガグリズリー。

体中から猛毒を放出し、巨大な口から伸びている数千もの触手をゆらゆらと動かしながらその身体からは想像できない速さで地面を這うジャイアントワーム。

少数の部隊で行動し、目にも留らぬ速さで相手を追い詰め、鋭い牙と恐るべき顎の力で獲物をかみ砕くパックズウルフ。

この魔物の群れは王都の騎士団にも匹敵するほどの相手だ。

普通はダンジョンの奥地や魔塔最上階で待ち構えているほどの魔物が、白昼堂々と森の中に姿を現しているのは異常な事態だった。

そこが魔物の巣窟で竜王の巣の下、竜の森であったとしてもだ。

「うおおおおおおおおおおおおおっっっ」

少年の年相応の高い絶叫が森に響き、すぐに薄暗い空に吸い込まれた。

少年の木刀の剣先が向くはグリズリーの心臓。

姿勢を低くし、一直線に駆けた

青みがかかった白い髪がなびく様は、稲妻のようだ。

だが、獰猛なウルフたちはそれを邪魔するように襲いかかってくる

少年は最初のウルフを木刀で横に一閃、両断した。

間隙なく次のウルフが牙を剥く。

少年は勢いのままに回転し、ウルフの顎に回し蹴りを炸裂させた。

ウルフの意識を一瞬で刈り取る。

さらに、最後のウルフが飛びかかってきた。

回し蹴りの後の不安定な体勢から、木刀を地面に突き立て、腕の力だけで身体を持ち上げる。

そのまま空中に身を躍らせ、ウルフを回避し、地に足をつけた。

そして、振り向きざまに手刀を繰り出す。

ただそれだけで、ウルフの身体から夥しい量の血が噴き出した。

しかし、少年の手には、血が一切付いていない。

黒い残滓が少年の手から零れ落ちる。

「ヴオオオオオオオオオッッッッッッ」

 

振りかぶられたグリズリーの剛腕はすさまじい風圧を生み、辺り一面に土埃が舞う。

土埃が落ちたころには、グリズリーの視界には少年はなく、木刀が佇んでいるばかりだった。

黒々とした森の中でグリズリーの隙を窺う少年の手は黒い魔力を帯びていた。



第2話 勇気と闘志


「森が騒がしいな」


聖剣の血を払いながら、勇者は呟く。

彼らの通って来た道には、魔物の骸がいくつも転がっていた。

戦士が巨体を大きく揺らしながら、苛立たしげに告げる。


「マイアンの陽動のせいだろう。 さっきから広域爆撃魔法撃っているようだ。おかげで身体がビリビリしやがる」

マイアンの魔力に相性が良いのか悪いのか過敏に反応してしまう戦士にとって、大量の魔力を散らす広域魔法は強烈なのだろう。

本人曰く、長い時間正座をしたときの足の痺れが全身に広がるような感覚らしい。

最近は慣れたようで戦闘に影響はないそうだ。


「巣への入口は見つけたから、あとは合流するだけだ。それまで我慢するんだな」

「ああ。サーシャがいてくれたらな。 この場で加護をつけてもらえるのにな。 したらよ、こんなビリビリ、屁のカッパーだぜ」

「あらかじめサーシャに頼み忘れたお前が悪い。それに治癒を行えるのが俺とサーシャだけだから、こうやって分かれるのが一番いい」

「それにしても、今日は一段と痺れやがる。マイアンの奴、気合入りすぎだぜ」


確かに今日はいつも以上に 戦士の身体が震えている。

痙攣している。いや。もしかすると。


「本当は恐怖で震えているんじゃないのか。最後の魔王臣、竜王との戦いに」

勇者はおどけたような口調で戦士を挑発した。僅かな情を込めて。その言葉に戦士は眼を丸くすると、突然、牙を剥きながら獰猛に笑った。


「何を言いやがる。むしろ、楽しみだぜ。今までは雑魚しか殺ってねえからな。ようやくこの腕を試せる。トカゲ野郎には魔王の前の肩慣らしに付き合ってもらおう」


鎧を着けずに露出している右腕は黒い無機質な輝きを放っている。人が生まれ持った肌の質感とは全く異なる艶。そして、その腕にはほとんどと言っていいほどに感覚がなかった。

「竜王をトカゲって……」

その言葉に勇者は思わず、笑みをこぼす。その言葉には幾分かの強がりが含まれていたが、勇者にはとても頼もしく思えた。

戦士だって、本当は怖いはずなのだ。勇者と同じように。

「それに俺の背中はお前が守ってくれんだろう。なら安心して、俺はあいつを殴り飛ばせる。だから、俺の背中を任せたぞ、相棒っ!」

 

今度は戦士らしい人懐こい笑顔を浮かべた。

とても眩しい笑顔だ。

勇者も笑顔で返す。

そういえば、炎竜襲撃の時からもう三年か。思いもよらず、ずいぶん長い付き合いになったな。


「ああ、任せとけ。お前の背中は俺が守る。この聖剣に誓お、うっ……」

「どうした。ブレイブっ!」

勇者は何も答えず眼をつぶる。眼窩の奥がチリチリする。鈍痛が頭を刺激する。何かを告げるように。


「……ああ、大丈夫だ。少し急ぐぞ、ヴァーク」


勇者は高速移動呪文の詠唱を始める。

基礎魔力術の応用で身体から密度の低い魔力を高出力で放出する魔法だ。

少し遅れて、戦士も身体強化を掛ける。

魔力を操作し、身体をより高速移動に適したものに変化させる体術である。刹那、二人は風を超え、森の奥に進んでいく。合流地点へと。


「何かを感じる」

勇者はぼそりと呟いた。



第3話 襲う鋭爪


バキバキバキと破砕音をたてながら、

大樹が倒れる。魔力を吸い、黒く染まった樹は通常の樹の強度を遙かに超える。

大樹が倒れた際に大きく土埃が広がった。


「くそっ!魔物が助け合うなんて」


身体にかかった土と木片をそのままに立ち上がる。

大樹に叩きつけられた際の傷が灼熱を帯びて、少年を苦しめる。

油断していた。

ギガグリズリーの不意を突き、首元を狙って、背後から手刀を繰り出したがだめだった。

ジャイアントワームの触手が迫っていたからだ。

触手を避けるために大きく飛退けると、もう一体のワームが触手を丸太のようにまとめ、それを身体ごと振りかぶった。

避けることができず、大樹に叩きつけられた。


「もう一度だ!」


少年はグリズリーに向かって、疾走する。

ワームの動きはグリズリーよりも遅い。

気を付けてさえいれば、充分避けられるだろう。

木刀を拾い、グリズリーの鋭爪をかいくぐって、一閃。

しかし、グリズリーの堅い毛皮に阻まれて、浅く切りつけることしかできなかった。

すると二体のワームは同じように触手を変形させて、振りかぶる。

だが遅い。

一体目のワームを難なく回避して、二体目のワームも避ける────そこでワームは触手を振りかぶりながら広げた。

触手は丸太から鞭に変わり、無数の鞭が少年を取り囲むように襲ってくる。驚く間もなく少年は地面に叩き付けられた。

肺から空気が抜け、世界がグルグル回っているように感じる。

少年が世界を認識し始めたころには、グリズリーの剛腕が振りかぶられていた。

少年は紙きれのように吹き飛ぶ。


「ヴオオオオオオオオオオォォォォォ」


勝利の雄叫びをギガグリズリーは上げた。

少年は動かない。

木刀を持つ腕は上がらない。

これまでの旅路で幾体もの魔物の攻撃を受けてきた少年だが、先の一撃は耐えられなかったらしい。少年の意識は暗闇の中に落ちて行った。



第4話 天翔る焔橋


「弱すぎる」


魔法使いは、詠唱を止めて呟いた。

杖を胸にギュッと抱き、帽子のつばを弄る。


「あなたもそう思いますか。マイアン」


賢者は手を合わせながら、真剣な眼差しでモンスターを見据えている。


「うん。魔物が弱すぎる。 森を出る前に探知した中には もっと強い奴がいたはずなんだけど」

二人を囲むようにひしめき合っている

魔物たちは、警戒しているのか近づいてこない。

勇者たちが竜王の巣の入口を探している間に森の魔物たちを引き付けておくのが二人の役目だったが、全ての魔物を引き付けるというのは土台無理な話だ。

そもそも頭がいい魔物は、ここまで近寄ってきたりはしない。

もっと、前の段階で警戒する。

恐れる。

彼女たちの力に。

それでも半数以上の魔物をこの場に集めているのは流石の技量だと言わざるを得ないだろう。


「しかしながら、 全く強い魔物がいないというのもおかしいですね。 勇者たちが派手に動き過ぎて、 そちらの方に行ってしまったのでしょうか。

……二人なら大丈夫だとは思いますが、 ヴァークの腕が心配ですね。

実戦は初めてですし。

だから、なるべくこちらの方で魔物を 対処しておきたかったのですが」


「むっ、ヴァークの腕はあたしが 何日も魔法を掛け続けて造りあげた最高傑作だよ!ただの魔物程度の攻撃で 調子が悪くなるような柔な設計はしてない!」

帽子を目深に被り、魔法使いは考える。

ヴァークの事も本当は少し心配だけど、それよりも探知した時は一番近かった強い魔物たちがこちらに来なかったことが気になる。

それにあの感じたことがない魔力。あれはなんだったのだろう。

魔物ではなさそうだったけど。


「ふう……うん、気になるなぁ……」

「何か気が付いたことがあるのですか、 マイアン?」


賢者が小首を傾げながら、訪ねた。魔法使いは、杖をブンと掲げて答える。


「よし。合流を早めよう。

少し気がかりなことがあってね。

また、探知もしておきたいから、 一気にこいつらを殲滅する。サーシャ手伝って」


賢者は魔王使いの横に立ち、手を繋げる。二人は術式的にも繋がる。


「分かりました。 (私も早く、ブレイブに会いたいですし) では、陣はわたしが。構成をマイアンが」

「魔力は二人で。一気に吹き飛ばすよ」

二人の身体から、魔力があふれ出す。

魔物は尋常じゃない魔力に怯え、後退る。

それを逃さないように賢者の魔力が魔法陣を描いた。

魔法使いは呪文を唱え、術を構成する。

それはまるでエルフの歌声のようで、薄暗い森を照らすように響き渡っていく。

二人の魔力が拒絶することなく混ざり合い、密度が大きくなる。

魔物たちが悲痛な叫びをあげる中で術は完成した。


「魔炎陣天衝、でやああああああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――――」


爆炎の柱が空を覆いつくした。


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