【連載小説】リクとゆずの能力の使い方!
【連載小説】リクとゆずの能力の使い方!
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連載小説の第7弾は...
『リクとゆずの能力の使い方!』 睦月 古 著
『リクとゆずの能力の使い方!』で、一日一読の読書生活を始めてみては??
≪目次≫
1話ー如月陸哉の日常
目の前からは光が迫っている。この光は今戦っている機械兵士が放った、いわゆるレーザービームというやつだ。
本来であればこのレーザーは光速とまでは行かなくとも、音速以上の速度で迫ってくるので簡単には躱すことは出来ない
しかし僕は違う。
「よっと」
正面から迫り来るレーザーを僕は身体を傾けるだけという最低限の動作で躱す。
機械兵士と言っても高性能AIが搭載されている。故に機械兵士は僕がレーザーを躱した事に驚きの表情を見せた。
その隙を逃すほど僕は甘くない。
「はぁっっ!」
僕は一気に相手の懐に潜り込み、装備してある刀を抜き、機械兵士を一撃で胴体から真っ二つに斬る。
「まず一体!」
そう。まず一体なのだ。まだ一体しか倒していない。
現在僕の目の前にいる機械兵士は三十体。さらに空には八体いる。
普通の人が見たら思うだろう。
多勢に無勢、八方塞がり、四面楚歌と。
だが僕にとってはこの程度は日常茶飯事だ。動揺する様な事ではない。このレベルの機械兵士は僕にとっては何体いようと関係ないのだ。
機械兵士はたった今一体が倒された事で学習したのか、次は地上の三十体の内十体が僕の周りを取り囲んだ。
そして一糸乱れぬ動きで右手を僕に向ける。
これは先程の機械兵士も放ったレーザーが四方八方から飛んでくるという事にほかならなかった。
機械兵士達の顔は自分達の勝利を確信している顔だった。
正直に言うとこれを躱すのはできないこともない。だがここは躱すよりももっと確実な方法で実力の差を見せつけてあげよう。
レーザーは僕の全身に直撃した。
機械兵士達の顔には笑みが浮かぶ。
しかし一瞬の後に機械兵士達の顔が驚きに染まる。
それもそうだろう。
機械兵士達には自分達が放ち、そして標的に命中したはずのレーザーが迫っていたのだ。
気づいた時にはもう遅くレーザーは十体の機械兵士を貫いた。
「
僕は小さく呟いた。
残った二十八体は明らかな動揺を見せた。
そして理解しただろう。勝ち目など微塵も無いことに。
しかし機械兵士は止まらない。いや止まれない。
なぜならここにいるレベルが低い機械兵士達は、命令通りに行動するだけのロボットだからだ。
だから機械兵士達は僕に向かって特攻を掛ける。
まずは空の八体が一気にではなく、ばらばらに時間差をつけて僕を手に持ったサーベルで斬りつける。
八体全ての攻撃は僕に直撃したが、僕に傷をつける事は一切無い。
次に地上の二十体が各々僕に攻撃を仕掛ける。
レーザーを放つ者、サーベルで斬りつける者、拳を叩きつけてくる者、僕はそれらすべてをまったく回避行動を取らずに全て受ける。
それらの攻撃もまた、僕を傷つける事は出来ない。
この事実を見て機械兵士達は威力が低くて攻撃が効いていないと判断したのか、一箇所に集まって一斉に右手を僕に向けた。
「おっ!これはラッキーだな。手間が省けたよ」
このレベルの機械戦士は言葉を理解出来ない。だから誰に言うというわけでもなく、僕は言った。
機械兵士は揃ってレーザーを僕に向けて放った。
目の前に迫る二十八体分のレーザー。
このレーザーは二十八体の機械兵士のエネルギーが込められている。
もしこのレーザーを躱したり、はじき返したりしても街に被害が出る事は確実に無い。だが僕は敢えてこれを真っ向から打ち破ることにした。
「
僕は叫び、迫ってくるレーザーに向けて両手からエネルギー弾を放出する。
僕の
さらにはね返すのは攻撃を受けてすぐということも出来るが、受けた攻撃をエネルギーとして貯めておくことが出来る。
今僕が放ったエネルギー弾は真っ直ぐにレーザーと衝突した。
エネルギー同士が押し合うが明らかに僕のエネルギー弾が押し返している。
僕が放ったエネルギー弾は機械兵士二十八体の攻撃のエネルギーを利用したものだ。しかし僕のエネルギー弾は機械兵士のレーザーより威力が高い。
この理由は
これがどういうことかというと、僕は体にぶつかる風や太陽の光などですらエネルギーとして利用出来るのだ。
つまり僕はその場に居るだけでもどんどんエネルギーを得ることが出来る。
故に風や太陽の光のエネルギーまで利用した僕のエネルギー弾が機械兵士のレーザーに負けるはずが無い。
僕のエネルギー弾は残っていた二十八体の機械兵士を全員撃ち抜いた。
討伐完了。
「よーし。終わったぁー!」
余裕とはいえやはり疲れるものは疲れるのだ。
今はまだ機械兵士が街に現れるのは三日に一回程度だし、僕以外にも
しかしこれ以上機械兵士の襲撃が増えればかなり大変になる。
、とまあそんな事を今考えても仕方ないのでさっさと家に帰るとしよう。
これが僕、如月陸哉きさらぎりくやの日常。
ランク六の
2話ー討伐者
《
機械兵士を討伐する為に組織に入っている人の事。組織の全容を知る者はほとんどおらず、謎に包まれている。
ランクを上げるには基本的には機械兵士を多く倒す事だが、僕が先日倒したような討伐レベル三以下の
ランクを四以上に上げるには討伐レベル四以上の
かくいう僕もランク六の
僕がランク六になったのは中学三年の時で、偶然遭遇した
こんな普段から戦いに明け暮れる僕だが、普段は普通に高校生をやっている。
確かに
僕が通う黄緑高校は高台にあるので見晴らしが良く、景色が綺麗なことで有名だ。さらに名前の通り木々が生い茂っていて、自然豊かな学校である。
偏差値や部活などの成績もそこそこで毎年多くの生徒が入学する。
この学校は登校するのに必ず長い坂道を登らなければいけない、という事を除けばかなりいい高校だと思う。
うん。坂道さえ無ければ。
「はぁはぁ。 疲れた。何で僕は毎日こんな坂道を登らなければいけないんだ」
長い坂道を自転車を押して歩く僕はまだ入学して二ヶ月しか経っていないというのにこの坂道にうんざりし始めていた。
まだ六月だというのに自転車を押して歩く生徒達は僕も含め皆額に汗を浮かべ疲れた表情をしている。
僕が必死に坂道を登っていると後ろから聞き覚えのある声が掛けられた。
「おっはよー!リク!」
声を掛けてきた相手は僕の肩を叩きながら挨拶してきた。
綺麗な栗色の長い髪はポニーテールになっている。顔立ちもとても整っていて、唇にあるほくろが色っぽさを醸し出している。さらに同姓からは羨望の、異性からは熱烈な視線が向けられるスタイルなのだ。バストは制服でも膨らみがわかるくらいに自己主張しているし、ウエストは引き締まっているし、スカートから伸びる足はスラリと長く、細く引き締まっている。
まあとにかく彼女はすごく美人で魅力的なのだ。加えて明るい性格で話しかけやすいということで、とにかくもてるのだ。入学二ヶ月ちょっとで男子生徒に告白された回数が両手の指では足りないくらいに。
彼女は僕の中学からの友人の
「おはよー、宇佐美。朝から元気だね」
「リクは疲れ過ぎよ。というかそんな事より宇佐美って呼ぶのいい加減やめてよね。中学の時みたいにゆずって呼んでよ」
「いや流石に高校生にもなって付き合ってもいない男女が名前で呼び合うのはどうかと」
などという言い訳をしようとするとゆずに、
「ゆずはあだ名でしょ?リクも」
反論の余地なし、という程ピシャリと言われてしまった。
さらに「ならいっそ付き合っちゃう?ふふっ」などと言われて僕は黙り込んだ。こいつがたまにこういう冗談を言う事は知っているが、やはりこんな美人に言われると精神的には普通の高校生である僕には黙る以外にどうすればいいのかわからなかった。
「はい、というわけでこれからも私はリクって呼ぶし、リクも私の事をゆずって呼ぶ事!わかった?わかったね。てかわかって」
今だとばかりにゆずが疑問、確認、命令の順でまくし立てるので、僕は諦めた。こうなった時のゆずは頑固だ。
「はいはい、わかったよゆず」
と僕が言うと、
「最初からそう言えばいいのよ」
と満足そうな顔でゆずは頷いた。
その後そのまま二人で学校に向かっているとゆずが僕にだけ聞こえるくらいの、さっきまでとは違う真面目な声で呟いた。
「結局いつになったら私と組んでくれるの?」
彼女も
その方が圧倒的に生存確率も戦闘効率も上がるからである。
先月僕はゆずにパートナーになってと誘われて、僕はこれを未だに保留にしている。
僕は今まで一人でも何も困る事も、大変な事も無かった。
だがもし今ゆずとパートナーになってしまうとゆずを僕の討伐に付き合わせてしまうかもしれない。ゆずが戦うところを直接見たことは無いが、まだランク四だという事は知っている。なので
「僕は今まで一人でも何の問題も無かったから、むやみにゆずを危険にさらしたくないんだ」
「それでも私はリクの隣で一緒に戦いたい!そのくらいの力は持ってるつもりよ。絶対足は引っ張らない。だから、」
「僕が日々やっている任務はランク四に務まるものじゃないよ」
ゆずの言葉を遮るように諭すように僕は言った。
「せめて僕と同じランク六になれるくらいの実力がある人とじゃなきゃ僕は組めない」
少し厳しい言い方だったかもしれないが全て事実なのだ。
僕の任務は先日のような
「そっか。ランク六か。……もし私がランク六になったらその時は私のパートナーになってくれる?」
僕の言葉を黙って聞いていたゆずはおもむろに言った。
いきなりランク四から六になるには
「うん。ゆずがランク六になったらパートナーになるよ」
と言った。
「よしっ!言ったね。その言葉しっかり覚えといてよね!絶対近いうちにランク六になってやるんだから!!」
ゆずは僕の言葉を聞いて、自信満々に宣言した。
いつも通り退屈な授業が終わり、帰ろうと思っていた時に僕とゆずの携帯から同時に着信音が鳴った。
『討伐任務っ!!』
携帯を見て、二人同時に呟いた。
携帯に届いた任務の概要を要約すると、〈街に出現した
「よしっ、急いで向かおう!」
「うん!」
僕はゆずと一緒に機械兵士の元へ向かった。
走っている途中にゆずが話しかけてきた。
「ねぇ、なんで今日の任務は二人に届いたの?」
「さあ?ただ近くにいたからってだけじゃない?」
「でも今までリクの近くにいてもそんなことなかったよ」
「うーん。確かに言われてみると少し変かも」
「でしょ!」
「でもまあいいじゃん。僕もゆずが戦うところ見てみたかったし」
「そうなの!じゃあ今回は私一人で戦ってもいい?私はリクの戦うところ見たことあるし」
この言葉には少し迷った。
という僕の考えを察したのかゆずが、
「
と言ってきた。
「わかった。じゃあ今回はゆずに任せるよ。ゆずが助けてって言うまでは僕は見てるだけにするよ」
「やった!ありがとーリク!」
3話ー柚姫の力
機械兵士が現れたという場所に到着するとかなりの数の機械兵士が立っていた。
まずはビルの影に隠れて相手の数を確認した。
「一、二、三……
「余裕よ!この程度なら五分もかからないわよ!」
想定してたより数が多く、心配になりゆずに確認したが、ゆずはまたもや自信満々に答えた。
「じゃあ行ってくるから。リクはここで見つからないように見ててね!」
「うん。気を付けてね!何かあったらすぐ助けに行くから」
「おっけー!頼りにしてるから!」
僕との会話を終えると、ゆずはビルの影から飛び出して機械兵士に向かって高々と叫んだ。
「あんたらの相手は私よ!さあかかってきなさい!」
その言葉を聞いて言葉を理解した
そしてゆずの体をオーラが覆う。
「
ゆずが
「水を操る力?」
おそらくそうだ。ゆずの
「はあぁっっ!」
ゆずが声を上げ、右手を横に振ると水流が機械兵士を襲う。
流された
「どうよ私の水牢は!動けないでしょ」
なるほど、確かにあれは水牢と呼ぶのに相応しい。水に閉じ込めるというのは身動きを封じるというだけでなく、人間相手なら呼吸すら封じてしまう。
もしゆずの攻撃が自分に向けられたと思うとゾッとした。
「さあ、これで終わりよ」
球体の水に包まれた
空中で
何度も体をぶつけ合いバラバラになったところで機械兵士だったものが地面に落ちた。
しかし水牢を操っている間、隙だらけだったゆずを
ゆずが
真っ直ぐ向かってくるレーザーをゆずはほとんど見ていなかった。
「危ないゆず!!」
「大丈夫だよリク。……
「ねっ!大丈夫だったでしょ」
「う、うん」
「だから安心して見てて。すぐ終わらせるから」
僕はゆずの力を舐めていたのかもしれない。
あれだけの力があれば
ここはゆずの言葉通り安心して見ていることにしよう。
「よしっ、一気に行くわよ!……
ゆずの言葉の直後、先程よりも大きな波が
ゆずの背後には津波の如き大波があった。
それは容赦無く
しかしそれで終わりでは無かった。
なんと
「津波の水圧で潰れなさい!」
ゆずが掲げていた右手を下ろすと津波が更に勢いを増して
「すごいな…」
誰にいうわけでもなく声が自然と口から漏れた。
津波に呑み込まれた
まさか
満面の笑みを浮かべながらゆずが僕の方に走って来る。
「どう? すごいでしょ? ほめてくれる? ほめてくれるわよね。てかほめなさい!」
ゆずが元気な声で言った。
何て声を掛けようか考えている時にゆずの背後に人影が見えた。
思考をゆずへの言葉を考える事からゆずの背後の人影へとシフトした。
これはかなりおかしい。
ここは確かに街のど真ん中だが、僕ら二人以外がいるはずはない。
なぜなら機械兵士が現れたらすぐに組織の人間が機械兵士をこの世界の裏側と呼ばれる場所に転送させるのだ。
そして世界の裏側には人も動物もいない。あるのはその場の景色だけ。
つまり今見ている景色はいつもの街の景色だが全く別なのだ。裏側でどれだけ街を壊そうが表側に被害が出ることは無い。
よってここにいるのは僕とゆずと転送された機械兵士だけのはずなのだ。
だから僕ら二人以外がいるというのはかなりイレギュラーな事態だ。
そう思いじっくりと人影を見てみた。
「……っ!!」
そして気付いた。
あの人影は機械兵士だ。それも先程までの
「……ゆず、逃げて」
「へ? 何言って……!!」
背後を振り返ってゆずも気付いたようだ。
機械兵士のランクは下から
今まで発見された
しかし
幸いな事に僕はその特別な場合に当てはまる。
僕一人なら
けどゆずを守りながら戦うのはきっと無理だ。だからゆずに逃げるように言ったのだ。
けれどもゆずは僕の言葉に反論した。
「私は逃げないよ。 こいつも私が一人で倒す!」
「何言ってるの! ここは僕がやるからゆずは先に帰ってて!」
「やだ。 今日は私に任せてくれる約束だったじゃん!」
「わがまま言わない!
「こいつを私一人で倒せなきゃリクとパートナーになれないもん! こいつを倒して私はランク六になるの!」
確かに
いい加減自分に正直になろう僕。
ゆずは強い。僕が守る必要が無いくらいに。
決断しろ僕! 本当に任せて良いのか? 後悔しないか?
「大丈夫。私は負けないから」
この言葉を聞いて謎の安心感を感じた僕は決心した。
「……わかった。 ここはゆずに任せるよ。気を付けてね」
「うん。見ててねリク。私の戦いを」
そしてゆずは再び機械兵士と相対した。
「さあ。行くわよ!」
これは何者かによって仕組まれているのかもしれない。
けれども今の私にとってそんな事はどうでもいい!
私は私の大好きな人に近づくため、大好きな人と一緒にいるために目の前の敵を倒す!
ただそれだけ。
4話ー柚姫の本気と……
「お嬢さん、一人で良かったのかい?二人で来てもいいのだよ?」
「余計なお世話よ。あんた程度私一人で十分よ。リクの手を煩わせるまでもないわ」
「ははっ、そうかい」
「そんな事よりあんた喋れるのね」
「当然さ。私くらいになると言語の使用くらい造作もない」
「ふーん、そうなんだ。まあどうでもいいや。どうせあんたはすぐ消えるんだから」
「消えるのはあなたの方ですよ。
「ええ」
機械兵士と言ってもずいぶん人間らしいのもいるものだ。
私が今までに戦ってきた機械兵士は尋常に勝負などという感じでは無かった。
基本的には数で攻めてきたし、不意打ちなどの卑怯な事をしてくる者もいた。
それと比べると今目の前にいる機械兵士には少しだが好感が持てた。
久しぶりにいい戦いが出来そうだという高揚感もあった。
「……
相手は初めて戦う
でも臆するな私!
勝てない相手じゃない。いや、勝てるに違いない。
勝機は必ず訪れる!
「行くわよ……
先程の
大波が
波がぶつかり激しく水しぶきが舞う。
「…どう?」
倒せてないにしても多少のダメージは通ったはず。
今のうちにもう一撃、と思い波が引く瞬間を待つ。
そして私は戦慄した。
「っ! いない!?」
波がぶつかるその時までは確かにいた機械兵士が消えていた。
どこに行った!?
私は焦った。
戦いの途中では絶対に相手の姿を見失ってはいけない。私はそう教わっていた。
焦るな! 落ち着け私!
自分に言い聞かせる事で冷静さを取り戻そうとする。
そのおかげで波が引いたあとの場所に目立たないが穴が空いているのを見つけた。
機械兵士はおそらく地面に潜り
しかし気付いた時には既に機械兵士が背後にいた。
「隙だらけだよだよ、お嬢さん」
「っ! しまった!」
機械兵士がサーベルで斬りつけてくるのをかろうじて氷を精製してガードする。
「くぅっ!」
氷でガードしたおかげで直撃は免れたがサーベルが左腕をかする。
機械兵士はまた地面の中に消える。
「なかなかに厄介ね」
地面から攻撃して来るなら空に逃げればいいかもしれない。
しかしそうしたら近郊状態になってしまい、長期戦は避けられない。
その時に不利になるのは間違いなく私だ。
機械兵士には体力に限りが無いが、私はいつか体力に限界が来てしまう。
そうなれば
だから空に逃げるのは得策では無い。地面で戦うべきだ。
「さて、どうしよっかなー…」
その時機械兵士が真下から現れた。
「こちらですよ」
今度は右足を狙われたが、これもかろうじて氷で防ぐ。
「ちょっとぉ! 紳士みたいな喋り方する癖にスカート履いてる女子高生の下から急に出てくるのは非常識じゃない!? 紳士どころか変態なの? 」
「それは失礼。しかしここは戦場だよ。そんな事を気にしてる暇があるのかい?」
軽口を叩いてみるも反撃する暇も無く機械兵士はまた地面の中に逃げ込んで行った。
その後の展開は一方的だった。
背後、下、右、左、正面、どこから来るのかわからず、
やられる一方だ。
機械兵士に何度も攻撃され、ガードが間に合わず受けた傷が体中に増えていく。
「んもうっ! 制服もボロボロじゃない! これ高いんだからね!」
「ははっ、そんな事の心配かいお嬢さん? そろそろ本気でいかせてもらうよ」
言うなり機械兵士はまた地面の中に消える。
「さてと……そろそろ反撃させてもらうわよ!」
もう五分近くもいいようにやられていた。
いい加減相手のターンは終わりにしよう。
「くらえ!」
機械兵士が地面から現れ斬り掛かってくる。
今私が立っている場所の二メートル右。
「甘いわ!」
私は機械兵士の攻撃の斬撃をあっさり氷を盾にして防ぐ。
「はぁっ!」
「何!?」
自分の位置が気付かれるだけでなく、私がサーベルを完璧にガードし、さらに反撃までして来たことで機械兵士は驚愕したようだ。
「……私がどこから現れるのかわかっていたのか?」
「もうあんたの行動パターンは全て見切ったわ。私分析力と記憶力が自慢なの。五分もやられ続けてたらあんたの動きくらい簡単に読めるわ」
「……そ、そんなことがあるはずはない!」
激高して機械兵士はまた地面に消えた。
そして背後四メートルの場所に現れる。
これも予想通り。
次は目視すること無くサーベルを躱し、がら空きの背中に攻撃を叩き込む。
「
全てを溶かす超強酸。
機械兵士の背中に触れてすぐに機械兵士の体を僅かに溶かす。
「ぐあぁっ!」
機械の体にも酸はしっかりきくようだ。
「ふふっ。これでわかったでしょう。もうあんたが地面に潜っても無駄よ。」
「…はぁはぁ……確かにそうみたいですね」
機械兵士は先程の一撃でずいぶんと疲弊しているようだ。
攻めるなら今か?
そう思うが相手は
迷っていたら機械兵士が先に動いた。
「姿を隠しても意味が無いのなら、真っ向から勝負と行きましょう!」
そして機械兵士は右腕を前に掲げる。レーザーを放つのだろう。
「くらいなさい!」
レーザーが放たれてすぐに私は防御する。
「
先程の
だが今の相手は
念には念を入れて壁を三重に張る。
「
レーザーは一直線に水の壁に向かってくる。
しかしレーザーは壁に当たる直前に曲がり、壁を避けて私に向かってきた。
「くっ!」
目の前に迫っていたレーザーを体を捻ってぎりぎりで躱す。
「ほう。なかなかの身体能力だね。私のレーザーを躱されたのは初めてだよ」
「そ。ありがと」
機械兵士は先程まで激高していたのが嘘のように冷静だった。
一難去ってまた一難。
地面に潜って不意をつく、という戦法を何とか攻略したかと思えば、次は曲がるレーザーと来た。
さてどうしたものか。
これでは海神壁による防御も出来ない。
躱し続けるのも無理だろう。
「どんどん行きますよ……はっ!」
再びレーザーが放たれる。
私はこれを水をドーム状にして周りを覆う、という方法で防御しようとした。
「これなら曲がろうが関係ないわ!」
急いで考えた割にはいいかもしれない。
この防御方法なら曲がるレーザーでも確実に防ぐ事が出来る。
しかしこの考えは甘かった。
レーザーは地面から現れた。
気付いた時にはもう遅く、レーザーが直撃したことによる衝撃が体中を走った。
「んっっ!」
思わず膝を付き、防御のために作ってあった水のドームも消滅した。
そしてその正面には機械兵士が勝利を確信した目でこちらを見ている。
「私の勝ちだね。お嬢さん」
「……はぁ、はぁ……まだ、まだ私は戦える!」
「そうかい……ならば死にたまえ、
そしてとどめのレーザーが放たれる。
「逃げて、ゆずーーー!!」
声が聞こえた。私の大好きな声だ。
助けに来てくれたのかな。
でもここで助けられるわけには行かない。
「私は大丈夫だよ」
レーザーは私の体の正面で巨大な水の塊によって阻まれた。
「なんだと!?」
機械兵士が驚きの声を上げる。
そして巨大な水の塊は意思を持っているかのようにどんどん形を変えていく。
最終的に人間の上半身のような形になった。
これが私のとっておき。
「海を統べる海神の力の前にひれ伏しなさい!
この技は巨大な
この技で勝負を決める!
「いくわよっ! ……
私の作り出した海神が空中に浮かび上がり、そして無数の水の槍が機械兵士の頭上に降り注ぐ。
逃げ場は無い。
「私の勝ちね」
私が勝ち誇った顔で機械兵士に言うと、機械兵士は驚きの表情から憤怒の表情へと変わった。
「…な…舐めるなーー!!」
叫び、頭上に迫る槍に向かって大威力のレーザーを放つ。
しかしレーザーによって防ぐ事が出来る槍はせいぜい十本程度。
「無駄よ。……まあでも私の
「……くそっ、くそっ」
「でもこれで終わりよ。さよなら。あんたとの戦いは少しだけ楽しかったわよ」
数瞬の後に機械兵士に大量の槍が降り注ぎ、機械兵士は機械の体を爆散させた。
「……ふふっ。勝った、
やった。勝てた。
これできっとランク六になれるはず。
リクのパートナーになれる。
これでリクと一緒に戦っていける。
戦いだけじゃない。これからはリクと一緒に過ごす時間が増えるはずだ。
一緒に戦って、一緒に過ごして、一緒に笑う。
そんなすぐそこに迫っている未来を想像したら、とてもワクワクしてきた。
しかしその心の隙を付くかのように目の前に突然拳を構えた人影が現れた。
私は瞬時に理解した。目の前にいるのが機械兵士だという事を。
「っ!」
「いきなりで悪いが……死ねや」
迫り来る拳は水を精製してガードする暇も無かったため何とか自分の顔と相手の拳との間に腕を滑り込ませる。
そして拳は振り切られ、ガードした腕だけでなく、体全体に凄まじい衝撃が走る。
「が……は……っ」
私は吹き飛ばされて近くにあったマンションの壁に背中を打ち付ける。
「……はぁ、一体、何が起きたのよ?」
「殺されかけているのでっすよっと」
先程の機械兵士とは違う容姿。
まだいたのか。
「……はぁ、あんたは…何なの?」
「おれっち?…おれっちは
「……っ! そん…な…」
あんなに苦労して倒したのにまだ二体も残っていたのか。
もうさっきの一撃で体はほとんど動かない。
状況は絶望的。
「あら、もう虫の息じゃありませんか」
そんな声が頭上から聞こえてきた。
「……誰?」
「ワタクシもそちらのと同じで
「……うそ…でしょ…」
「嘘じゃねーよ。現実を見ろ」
さっき私を殴った機械兵士まで戻って来た。
目の前には一体倒すのがやっとの
「……もう…だめ…なの?」
「ははっ。さすがに諦めた?」
「なんだよこいつ。全然よえーじゃん」
「不意打ちしといて何を言ってるんですか」
目の前で繰り広げられている会話がどこか遠い所とように感じた。
「さてと、任務遂行のためにこいつは消すよ」
「はいよ」
「了解です」
機械兵士が少しだけ遠ざかり、私に右手を向けた。
「ばいばい」
私は死ぬの?
こんなところで。
これからリクと一緒に楽しく過ごすはずだったのに。
やだ。やだ。まだ死にたくない。
私はもっとリクと生きたい!
「………助けて!リクっっっ!!」
絶叫した時にはすでにレーザーが目と鼻の先まで迫っていた。
もうだめだ……っ!
半ば諦めて、固く目を瞑る。
その刹那。
何の前触れも無く目の前にリクが現れた。
そして
「
レーザーはリクにぶつかると同時に霧散した。
そしてリクは私に優しくほほ笑んだ。
5話ー陸哉の自信
「……り、リクぅぅ」
誰よりも頼りになる人が来てくれたことで緊張の糸が切れて、目から涙が次から次へと溢れてくる。
へたりこんだ体勢のままリクを見上げているとリクが私に笑顔を向けた。
そして私の頭に手を置き優しく撫でて、言った。
「間に合って良かった。ゆず、お疲れ様。よく頑張ったね」
「……ありがとリク。助けてくれるって信じてた」
「うん。助けてって言うまで一人で戦うって約束だったもんね。……だからここで選手交代だよ」
「でも……一人で勝てるの?」
「……正直に言うと
それはリクの敗北宣言だった。
私はリクより強い人を他に一人しか知らない。
そんなリクでも
「そんな……じゃあやっぱり私も!」
リク一人で勝てないのなら私も一緒に戦おう。
たとえそれで負けたとしてもリクと一緒ならそれはそれで本望だ。
しかしリクは反論して来た。
「いや、ここは僕が一人で戦う。怪我をしているゆずに……未来のパートナーにこれ以上戦わせるわけには行かない」
「でもっ!一人じゃ……リク、死んじゃうよ」
リクが未来のパートナーと言ってくれたことに少しだけドキッとしたが、ここで死んでしまったら元も子も無い。
「僕は死なないよ」
「ぇ?」
「勝つのが厳しいとは言ったけど負ける気は毛頭ないよ。僕は必ず勝つよ」
リクはきっぱりと言い放った。
必ず勝つ。
リクが必ずと言ったならきっと勝てるのだろう。
リクは必ずと言う言葉を軽々しく使わない。
だからこそこの言葉を言ったなら信頼出来る。
「わかった……勝ってきてね!」
「もちろん! 見ててね。ゆずには初めて見せる僕の本気を!」
本気?
どういう意味だろうか?
まあ今考えても仕方が無い。
今は言われた通りリクの戦いを目に焼き付けよう。
そしてリクは機械兵士の元に向かって行った。
その時機械兵士に向かっていくリクの背中には凄まじい怒気が見えたような気がした。
頼もしくも思ったが少しだけリクが怖く見えた。
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