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【連載小説】生きる意味を教えてくれたのは君だった

【連載小説】生きる意味を教えてくれたのは君だった



『デビュー前の“作家の卵”の方々の作品を先取りして、日々の読書を楽しもう』

をコンセプトに、様々なジャンルの小説の冒頭5話を掲載しています!

面白い作品や気に入った作家を見つけて、作家デビューまで応援しよう!

本ページの最後に作家様のリンクを設けてあるので、足を運んでみてください。


連載小説の第8弾は...

『生きる意味を教えてくれたのは君だった』 香川栞



『生きる意味を教えてくれたのは君だった』で、一日一読の読書生活を始めてみては??



≪目次≫

1話:迎えた日

2話:彼女を知った日

3話:彼女を初めて見た日

4話:声をかけられた日

5話:勧誘された日





1話:迎えた日


 心は躍り、高揚感は人の心を満たす。新しい場所へ身を投じれば、人の思いとは不思議なもので、不安とともに、何か新しいものに対する期待を抱く。いつからだろうか?輝くものを、胸の高なりを、何かに期待することをやめてしまったのは。

  こんなことを考えるのはやはり今日という日があるからだろう。入学式。人生でいう重要な日の一つでありながら、体はそれを拒絶するように重くなる。


 「朝か・・・」


  起きてすぐでありながら頭はよく回っている。ゆっくりと起き上がり、洗面所へ向かう。歯を磨き、居間へ行くともう朝食の用意がされている。


 「裕也、早くしなさい。遅れるわよ」 


 「分かってる」


 「分かってるなら早く食べなさい」


  母に急かされるままに朝食を口にかけ込み、身支度をする。制服に袖を通し、ネクタイを締めると、高校生になったことを実感する。母は嬉しそうにこちらを垣間見ている。一通りの支度が済み、居間を出ようとすると母から「お父さんにも見せてきなさい」と言われた。

  父は、警察官であった。スピード違反の車を追跡している時、対向車線の居眠り運転のトラックに激突した。病院に搬送された時にはもう手遅れだったらしい。葬式には、トラック運転手も参列していたが、母が泣きながら追い返していたのを今でもよく覚えている。 


 「父さん・・・・、行ってくるよ」


  小さくそう告げ、家を出た。

  これから通う観音寺高等学校は、この辺では名の知れた進学校である。全生徒は約九百人、部活動も盛んで、文武両道を目指す学生にはうってつけの環境が揃っている。

  中でもこの学校の最大の特色は、部活動を自分で容易に作ることができることである。部活の顧問、部員三人を集める、この二つさえ守っていればどんな部活も部として認定される。そのためこの学校には多種多様な部活動が存在している。

 この学校を選んだのは、何もこの方式に共感を得た訳では無く、多くの部活があるのであれば、楽な部活に容易に巡り合えるという何とも幼稚な発想からであった。

  登校中は多くの学生が浮足立っている。写真を撮り、何列にもなってくだらない話で盛り上がる。そんな集団を早足で追い抜きながら、ようやく目的地まで到着した。いつもより早く歩いたせいか少し息が切れつつも、校門をくぐると、人だかりが出来ているのが見える。近づいてみると、大きな掲示板にクラス分けの紙が貼ってあるようである。あまりにも人が多いので引くのを待っていると後ろから肩を叩かれる。


 「よう、裕也。なにしてんだよ?」


 「健人か、見て分からないか」


 「まったく」


  しょうがなく掲示板に指を指すとようやく理解したようにこちらを向く。


 「しょうがねえな。俺が見てきてやるよ。ちょっとこれ持っててくれ」


  そう言うと健人は、サッカーボールやスパイクの入ったエナメルバッグを無理やり渡し、集団の中に飛び込んでいった。いや、薙ぎ倒していったと言う方が正しいかもしれない。身長百八十センチ、柔道部に間違えられるほどの体格は、集団の中でもよく目立つ。名前を確認し終えたのか嬉しそうにこちらに戻ってくる。


 「良かったな。俺とお前、同じクラスだったぜ」


 「そうか、じゃあ早く教室いこうぜ」


 「それだけかよ。もっと嬉しそうにしろよな」


  健人の言葉を軽く流し、学校の入口へ向かった。



2話:彼女を知った日


 入口付近には多くの花が植えられており、また学校を囲う様に木が植えられている。昭和末期に建てられたにしては、築年数を思わせない新鮮さを感じさせるのは、やはり丁寧に手入れされた木々の影響なのだろうか、そんなどうでもいいことを考えている間に自分の教室に到着していた。前の黒板を確認し、自分の席を見つけ、腰を下ろす。健人も自分の席を見つけるとそこに座る。

 特にすることも無いので、昨日買った文庫本を取り出し、時間を潰す。周りでは多くの生徒が自己紹介なりメール交換をして友達作りに躍起になっている。忙しいやつらだなと思いながら、文庫本を読み進めていると、健人がこちらに近づいて来るのが見える。


 「本ばっか読んでねえで少しは社交的に話しかけに行けよな」


 「誰がするかよ。作り笑いでへこへこするようなキャラに見えるか?」


 「友達作りなんて最初はそんなもんだろ」


 「一人になるのが不安なだけだろ。寂しくならないために、自分の周りに置いて安心したいだけだ。その程度のことなんだよ。あれは」 


 そう言って、周りを見渡す。


 「お前にはそう見えるのか」


 「なんか言ったか?」


 「いや、それより知ってるかよ? 今日の新入生代表の挨拶をする子、めっちゃくちゃ可愛いらしいぜ」


 「知らねえよ」 


 「たしか、名前は・・・・、田淵陽子だ。入学試験もほぼ満点で合格したらしいぜ。でもすごいよな、顔が良くて頭も良い、まさに才色兼備のお嬢様ってやつだろ。女子にとってはまさに憧れの的だろ」 


 「どうだろうな、持っているやつってのは持っているなりの苦労を抱えているものさ」


 「どういうことだよ?」


 「そのままの意味だ。他者よりも秀でた才能は、時に人の妬みを誘発するものさ。その才能が目立てば目立つほど、人は自分より上にいる存在を蹴り落とそうとする。不幸なことに、持っているやつほど生きづらくできてるんだよ」


 「俺は、そうは思わないけどなぁ」


 「お前には縁のない話かもな」


  教室の扉が開き、担任の教諭が入って来るのが見えると、健人は軽く手を振り、自分の席に着いた。

  四十代前半であろうその教諭は、ヒールで床をカツカツと音を鳴らしながら教卓の上に立った。あまりやる気が感じられないのか、ため息ばかりついている。


 「今日からこのクラスの担任になった黒峰鏡花です。これから入学式が始まるので静かに教室に出て、体育館へ移動して下さい。騒ぐと私が叱られるのでそこのところよろしく頼みます」


  そう言うと黒峰先生は、さっと教室から出ていった。生徒も状況を理解したのか、ゆっくりと教室から出る。席を立ち上がり、教室から出て、廊下を歩いていると、後ろから追いついた健人が横に並ぶ。


 「大雑把な先生だったな。もっといろいろ話してくれても良かったのにな」


 「そうか?俺は長々と説明されるよりは、断然良かったと思うけどな」


 「まぁ、それはそれとして、やっと陽子ちゃんに会えるな。楽しみだな」


 「別に」


 「席の隣のやつが陽子ちゃんと同じ中学だったらしいからいろいろ聞いたんだが、彼女、かなりの変人らしいぜ。中学じゃあ知らないやつはまずいないくらいの有名人で、中学の先生は陽子ちゃんの行動に手を焼いていたらしい。頭はそんなに良くはなかったらしいから、この高校に入学して、増してや入学式で新入生代表の挨拶をするのは驚いたらしいぜ」


 「俺はそんなやつに負けたのかよ」


 「裕也は入学試験二位だったもんな。二位でも十分すごいんだから落ち込むなよ。スポーツ推薦で入った俺より断然優秀だぜ」


 「落ち込んでない」


 「そういえば、もう部活は決めたのか?」


 「決めてない」


 「もうサッカー部に入る気はないのか?」


 「ない。二度と」


 「あのことがまだ忘れられないか?お前は何も悪くなかったじゃねえか。先輩もいい人ばっかだから、もうあんなことは起きねえよ」


 「それでも俺は、もう無理だ」


 「そうか・・・・、すまねえな。でも、もしまたやりたいと思ったら言ってくれよな。力になるぜ」


 「ああ、ありがとう」


  そんな会話をしている間に、体育館に到着した。



3話:彼女を初めて見た日


 在校生はすでに席についている。一年の他のクラスもすでに席についており、急いで指定された席に座る。

 教頭が全員席についたのを確認すると、開会の辞を述べる。校長の挨拶、校歌斉唱、地方自治団体の挨拶など、式は着々と進められた。

 話自体は形式ばったものが多く、ほとんどの生徒がつまらなそうな顔をしているか健人のように爆睡しているものもいる。

 生徒会長による新入生挨拶が終わると、新入生からの答辞である。田淵陽子と名前を呼ばれると、元気よく返事をして、前に立つ。

健人が言っていた通り、顔の整った美人である。田淵は少し虚ろな顔を一瞬すると、ぱっと笑顔になり息を大きく吸い込む。


「こんにちは。田淵陽子です。この伝統ある観音寺高校に入学できて嬉しく思います。答辞ですが、面倒なので割愛させていただきます。話は変わりますが、この学校は、部活動を作るのが容易だと聞いています。私は、今年、新しい部活動を作りたいと考えています。入部したいと思う人は、私に伝えてください。以上です。入部お待ちしています」


 それだけ伝えると田淵は早々に席に戻った。ざわめく生徒を先生達が静かにするようにと促している。


 無理もない。


入学式という式辞の中で、新入生代表である生徒が答辞も述べずに、部活動勧誘をしたのである。


結局、ざわめきが静まらないまま入学式は終了した。



4話:声をかけられた日


教室に帰っても田淵のことで話が持ちきりだった。椅子に座って本を読んでいると、健人が嬉しそうにこちらに歩いてくる。


「なっ、可愛かっただろ?」


「可愛いっていう問題じゃないだろ。新入生の挨拶が無い入学式なんて初めてだ」


「それにしても陽子ちゃんはどんな部活を作るつもりなのかな?」


「知るかよ、あんな変人の考えることなんて」


「部活決まってないなら陽子ちゃんの部活に入るのはどうだ?」


「嫌だよ。確実に面倒くさいことになるのは目に見えてる」


「あれだけ派手に宣伝したんだから入部希望者は多いだろうな」


「田淵目当ての野次馬は多いと思う」


「この後、部活動勧誘が学校のあちこちであるらしいからいろいろ見て回ってこいよ。俺はサッカー部の勧誘に行くから一緒には回れねえけど」


「気が向いたら行くよ」


 教室の扉が開き、黒峰先生が朝よりも一層疲れた表情で教室に入って来た。


「今日はこれで学校は終了です。明日から授業が始まりますから教科書など忘れずに持って来てください。これから職員会議があるので私は職員室に戻ります。では解散」


黒峰先生が教室から出ていくと、それを合図に皆、教室を出ていった。もう勧誘は始まっているのか、教室からでも分かるほど声は響いている。

 特にこれからやることも無いので、学校を散策してみるかと思い、荷物を片付け教室を後にした。


 学校内外では、多くの部活動が新入生を勧誘し、それぞれの部の活動内容を説明している。中には良く分からない部も多く存在しており、選ぶという立場に立つ身としてはなかなか難しい状況である。


 目的も無くふらふらと歩いていると、一つの人だかりが見えた。


 何事であろうかと顔を覗かせてみると、その中心にいたのは田淵陽子である。一瞬目があった気がしたが、人だかりの中に埋もれるのは非常に気分が悪く、すぐにその場から逃げだす。

パイプイスと簡素な机と部員募集と書かれた張り紙だけの殺風景な状況下であれだけの人を呼び込めるのは、やはりあの入学式のインパクトの大きさ故なのだろう。

立ち去ろうと人ごみに背を向けた瞬間、肩に手を触れられ、強引に後ろに向かされた。一体誰なんだと思い顔をあげ、顔を見るとそこに立っているのは、田淵陽子だった。



5話:勧誘された日


「あなた名前は?」


 「裕也だ」


 「私の部活に入らない?裕也君」


 「はあ、なんで俺なんだ。入りたがっている奴ならそこにたくさんいるじゃないか」


 「私に興味を示さなかった」


 「それだけかよ」


 「あと、あなたに何かを感じた。それを確かめたくなった」


 「期待しているのなら見当違いだ。他をあたってくれ」


 「でもまだ部活は決めてないのでしょう?」


 「まあ」


 「籍を置くだけでも構わないわ」


 「何をする部活なんだ?」


 「入ってくれるなら教えてあげる」


  学校の校則では、生徒は必ず部活動に所属しなければならない。籍を置くだけでよいというのなら当初の目的である楽な部活動への所属も十分満たしている。それに、これ以上田淵陽子と一対一で会話していると、他の生徒の視線を浴び続けることになる。あまり長居するのは得策でもないだろう。

 「分かった。入るよ」


 「決定ね。明日の放課後、三階の視聴覚室に集合よ」


 「籍を置くだけなんだから行かなくてもいいだろ」


 「強制集合よ。それじゃ、また明日ね」


  そう言うと田淵は軽く手を振り、その場を去った。

  その後もいくつか部活を回ってみたが特に興味を持つものは見つからなかった。

  家に帰り、ベッドに横になる。あれだけの数の部活があり、多くの生徒が新入生を勧誘し、新入生はその光景を見て目を輝かせる。そんな光景を見てひどく疲れてしまった。これから始まる未来に向けて夢を見ている奴らが羨ましくて、それと同時に妬ましく感じた。俺が持っていないもの、いや、持つべきではないものを当たり前のように持っている。いつからこんなつまらない奴になっただろうか。分かってしまう、だから苦しくなる。捨ててしまおうとしても捨てきれない自分がどこかに存在する。 


 「戒めたつもりなのに・・・」



  無意識にそんな言葉を口にしてしまった。



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